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週末ともなると絵描きが集まりキャンバスに向かって筆を走らせたり、自作品を売ったりしている。かなり年齢の いった女性の絵描きがそらっとぼけたマンガチックな絵を売っていた。ご本人は一見怖そうだけど、案外ずっこけたところがあるのかもしれない。ローラーブ レード嬢がにぎやかにやって来た。14歳の仲良し3人組のはじける若さ。思い思いの楽しいおしゃれが灰色の空の下に彩りを添えている。

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橋を渡ると5区だ。ヴィエーブル通り、メートル・アルベール通りの先がサンジェルマン大通り、右手には地下鉄のモベール・ミュチュアリテ駅があ る。今はもう引っ越してしまったが、元バレエダンサーの友人がサンジェルマン大通りに面した建物の、正真正銘の屋根裏に住んでいた。

エレベーター無しの7階、部屋にはシャワーなし、トイレ は外の廊下の先。12平米もあったろうか。彼女は私よりも少し年上で、出会ったときには和紙に絵を描く人だった。もちろんそんなもので身を立てられるわけ もなく、もとはいいところのお嬢さんが、なぜ、こんな女中部屋に甘んじているのか? わたしには分からなかった。週末には実家に帰る学生ならい ざ知らず、いい年をした中年女性がお風呂もトイレもないマッチ箱みたいな小部屋に8年も住み続けるなんて。ご存知の通り、この国に は銭湯なんかない・・・。

幼い頃からバレエしか知らなかったので、踊ることが出 来なくなって途方に暮れ、極貧生活に甘んじていたのだった。品があり、知的文化レベルも高く、ものを欲しいと思わない人だった。その彼女が言っていた。「わたしの窓にはいつもノートルダムがいてくれた」

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なるほど、部屋の壁の半分も占めそうな窓からはノートルダムの背面がすっかり見わたせた。ノートルダムを独り占めだ。そして毎朝、いつもアルシェヴェシェ橋を渡って教会に足を運ぶのだ。不思議と彼女の部屋から俯瞰で見るノートルダ ムの後ろ姿は、真後ろで見たときのような奇異な感じはしなかった。とくに夜、ライトアップされ闇に浮かび上がる姿はじつに壮麗で美しく、独特のスピリチュ アルな「気」に包まれていたように思う。この界隈の屋根裏に住む貧しくうちひしがれた人たちがどれだけそのオーラに守られていることだろう。桴海=毒の森 の空気を吸った人間が、治癒能力を有し慈しみの感情も持つオームの分泌する「漿液(しょうえき)」で肺を満たすことによって再び呼吸ができるように。