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オルセー美術館から道路を渡った橋のたもとに彫像が立っている。見ると、おや、トーマス・ジェファソンだ。アメリカ独立宣言の作者であり、信教の自由を求めたバージ ニアの法の作者、そしてバージニア大学の父。歴史上の超有名人だが、アメリカ人の彼がなぜここに?

たしかにジェファソンは駐フランス公使として革命勃発直前のパリに滞在したが、住居はシャンゼリゼにあったはず。黒人奴隷たちとの関係だろうか? 奴隷制廃止論者でありながら生涯を通じて黒人奴隷を600人ほど所有していた彼の立場は微妙で、賛否両論あるらしい。ただ、あの時代の白人の中ではやはり黒人の権利を認めた先覚者だった。奴隷貿易を廃止す る法案に署名したのだから。

・・・ということは、「ネグリチュード」運動の始祖をサポートするためにここに配置されたのかもしれない。アフリカ人のサンゴール だけに栄誉を授けるわけにはいかず、大ジェファソンが引き合いに出された? 白人社会の深謀遠慮・・・だとすれば、そこに複雑な政治的意図も見え隠れするような気がしないでもない。

橋の新しい名称がアフリカ人、そのたもとの彫像がアメリカ人。ちょっと悩が、そんなことより、実際に橋を渡ってみよう!

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橋の構造 は上下二重、上下それぞれが両岸の道路(上)と川縁(下)に通じるようになっていて楽しい。あまり人のいないところが穴場と言えるだろう。いや、もしかしたら、ここは観光客の密かなお気に入りかもしれない。欄干には愛の鍵がチラホラ取り付けられている。

橋の中央から上流を望むと、右手にオルセー、左手にルーブル、正面のずっと奥に ノートルダムが、また下流を望むと右手にオランジュリー、ほぼ正面にグランパレ、左手遠くにエッフェル塔の先っちょと、眺めもなかなかいい。7月14日の 花火には格好の桟敷席に違いない。

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左岸にはレセプション用の客船が停泊、昼はレストラン、夜はディスコとして賑わっている。隣に、バトー・ビュス(定期船バス)の停留所もある。右岸には猫の額ほどの広場があって、セーヌ川のほとりを散歩する恋人たちの後ろでミュージシャンが演奏準備を進めている。その脇を、老境に入った孤独な夢想者が通り過ぎていく。

ご く一部にあしらわれたメタルが空の色を反映してシック。気取らない中にキラリと光るおしゃれな姿でウッドデッキ優雅にアーチを描き、栄誉 に満ちたセーヌ両岸をさりげなくつないでいる。リュクスとカジュアルをうまく組み合わせて着こなすパリっ子らしい橋。こんな何気ないところに、この都市の 真髄があるように思う。

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